コラム:人生は喜びに満ちている 第89回 「謎の同居人」を目指せ
いつだったか、テレビで一般の方が三輪 明宏さんに相談をして、三輪さんがそれに 応えるという内容の番組を見ました。相談内容は、結婚した相手(ご主人)に愛情を 感じないが、将来自分の親の面倒を見てもらえそうなので、このまま婚姻関係を続け ていた方がいいのかというものでした。それに対し三輪さんはけっこう厳しい返答を していたのですが、私は、そのやりとりの中でとても印象に残る言葉を耳にしたので す。
それは、三輪さんが「夫婦っていうのはね、最初は濃密な関係だけど、だんだんそれ が薄れて最後は、謎の同居人となるの。その時はもう体の関係もないから、死ぬ時は 互いにきれいな体であの世に行けるわけ。それを成仏って言うのよ」と言われたので す。私は、この言葉にとてもひきつけられました。「そうか、私たちは『謎の同居 人』を目指しているのか」と感嘆しました。
結婚式で私たちは、神様の前に立ち「永遠の愛」を誓います。その時は、互いに相手 を思いやり、相手をいたわろうと素直に思っているかもしれません。これからの甘い 結婚生活を信じて疑わないかもしれません。しかし時間の経過とともに、それは幻想 だったと後悔する人もいるでしょう。相手に裏切られたと離婚を考える場合もあるで しょう。
私は、この夫婦関係についてのご相談をよく受けます。さまざまな夫婦間の問題を相 談されるのですが、その中心にあるものは、相手である夫(妻)の気持ちを知りたい という願望です。そこには、これまでの夫婦の歴史の中で、互いに言葉を用いて自分 の気持ちや意見を積極的に交換してこなかった“怠慢さ”を指摘することができま す。
かつて誓った永遠の愛も、放っておいては、やがて色あせ、消えていきます。永遠の 愛は、常に二人で育てていかなければ成立しません。そこに言葉は欠かせないので す。結婚指輪を交わした特別で濃密な仲であっても、当初は、互いの美しい誤解が、 その関係をロマンティックに演出してくれているとも言えそうです。
夫婦は、互いの学びには欠かせない、どちらにとっても貴重な存在です。であるから こそ、常に、自分の思いや考えを伝え合う努力が必要です。夫婦であるからこそ、自 分を語ることが求められるのです。自分を語り、相手の語ることを聞いて、それにつ いての自分の感想や意見を相手に投げかけるということの繰り返しを通して相手を理 解することができるのです。そして、そこに夫婦の信頼が生まれてくるのです。
既婚者の方々は、どうぞ今日から、かけがえのない夫や妻と語り合ってください。た くさんの言葉を夫婦間で使ってください。使い続けてください。最初は、相手が気味 悪がって、貝のように口を閉ざしてしまうかもしれません。でも、あきらめないで、 話しかけ続けてください。難しい話でなくてよいのです。最初は世間話のようなもの でよいのです。軽い感じで、楽しく相手に語りかけてください。相手があいづちだけ 返してきても、それだけでも十分会話を交わしていると感じてください。それを継続 していくことで、相手も次第にその状況に慣れていき、だんだん言葉を発してくるで しょう。
多くの言葉を交し合った夫婦は、やがて、言葉を必要としなくなる日が来るのです。 その時のふたりは、まさに以心伝心の関係です。それは、「謎の同居人」状態を指し ています。そこにたどりつくまでには、やはり長年の時間が要るはずです。時間をか けて、互いの美しい誤解を解きましょう。しかし、それは相手の新たな人間性の発見 につながることなので、決して「化けの皮がはがれる」というおぞましい状況を意味 するものではないのです。
ちなみに、相手の化けの皮がはがれた、相手にだまされたと感じるのは、残念ながら それまで互いに言葉を用いて理解し合おうという努力をしてこなかった結果です。
結婚式で誓った「永遠の愛」は、「私たちは、謎の同居人を目指します」という宣言 です。それは、これから新郎と新婦は互いの人生を交差させて、思う存分言葉を用い て語り合い、啓発し合い、学び合い、そこに築かれる信頼の中で、やがて静寂の無へ 帰還することを意味します。



